女神像抱く壺より春の水      平田 冬か
さゞ波に溺れ溺れず菖蒲の芽
白菜の藁の鉢巻冬に入る      大西 照光
紅き手で貝選り分けし寒さかな
春疾風土竜脅しの今必死      大西 洋子
磨崖沸かくし隠さずうす霞
蓬餅母の手伝ひせし昔       金澤登代子
干し物を慌てゝ入れる春の雪
白鳩の舞ひ翔つ空や神還る     川北 紫
なで牛の背ナの温みや日脚伸ぶ
啓蟄や土新しき土竜塚       近藤 善子
闇汁や尺余の鍋の裾わりよし
山裾の一戸に国旗紀元節      佐野 紫香
白梅の見事ひらきぬ遺作展
蕾つけ梅の古木の枯れてゐず    中内 きみ
綿菓子のさらはれさうや春疾風
吾ひとり風に吹かるゝ枯野かな   中島ツミ子
木目込みにして自作なる雛飾る
農仕事予定の立たず春寒し     中野 千津
晩学の辞書に親しむ炬燵かな
生活の物をほとりに炬燵守る    中村 孝王
ジョギングの始まるまでの焚火かな
苗よりも太き添木や杉を植う    長山 千栄
落ちたる実括りあるあり植木市
霜柱踏みて弔ふ法師塚       馬場 菜摘
大の字をくつきりと見せ山笑ふ
春一番斎庭の鶏を走らかす     渕脇 逸郎
吾も息を止めかいつぶり浮くを待つ
卒寿の師米寿の弟子や初稽古    古川 禎子
春立つや鳴門の渦の盛り上がり
兼好の奥津城処梅早し       松尾 忠子
薬園の藍より青き竜の玉
留守三月蕗の薹早や出てをりぬ   森 セツ子
霧の粒凝りて蜘蛛の巣あらはかな
春泥に長靴重し畑仕事       森岡 幸子
止まる枝決めてゐるかに鶲来る
盆梅や枝くねらせて保たるゝ    山口 悦子
せゝらぎの音耳底に草を摘む
春めくや行燈灯し旧街道      吉田 寛之
冬ごもりひたすら人の句を読みて
山裾をめぐる一水猫柳       和田  菊
虫喰の枡を大事に豆をまく